自由研究16■池袋・目白企画2002.6の記録


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テーマ●近代建築の再生と活用その1−池袋・目白−

日 時●2002年6月22日(土)14:00〜18:00
コース●東京芸術劇場(集合)→東京都豊島分庁舎→(大学通り)→立教大学→自由学園→目白庭園→徳川ハウス→日立目白クラブ→おとめ山公園→落合中学校→Kフラット→聖母病院→旧佐伯祐三アトリエ→(バス)→目白駅(解散) ※番外編:目白駅→学習院大学(解散)
参加者●19名
◎溝辺正浩(コーディネータ)、新井英子、安藤文、井手幸人、太田美里、大竹亮、小俣元美、鎌原史英、岸田典子、北洋子、桜井香織、桜井ひろみ、清水俊哉、田野裕美、寺崎昌徳、平井志都葉、藤井正男、弓削孝浩、脇野真澄


[参加者の意見]
デザイン(D)、使われ方(T)、周辺との関係(S)、文化的価値(B)の4項目をA〜Dの4段階で評価した。

1.立教大学
(D):AAAAAAAAAAAAAB=4.86(T):AAAAAAAAAAAAAA=5.00
(S):AAAAAAAAABBBBB=4.29(B):AAAAAAAAAAAAAB=4.86 総合:4.75
◆左右対称のイギリス庭園とツタの絡まる校舎群は、あこがれのキャンパスの典型。程良い大きさの建物に囲ま れたスペースが居心地よく、なかでも学生食堂の新旧部分のつなぎはうまい!
◆由緒ある大学には古い洋館が似つかわしいが、時代に対応するには原型のまま維持するのは困難。新旧の建物 の調和に腐心している好例。
◆新しい建物も古い建物の存在を損なわないよう配慮されているところが良い。
◆歴史的資産を保存活用すると共に、空間的な広がりを残しつつ新しい施設を増設する、極めて良質な計画。
◆歴史的な建物とモダンな建物を合体させて違和感がない点がすごい。
◆食堂のキッチンと食事室の建物のジョイントの仕方など、古い建物と新しい建物との融合と調和が見事。
◆古い建物の修繕利用の仕方が上手。新しい建物との調和、対比が面白い。
◆新しい部分が主張し過ぎず、古い部分と違和感なく成立している食堂は見事。
◆お金をかけるとここまでできるという見本。
◆レンガ造りと蔦のからまった壁、大きなもみの木(クリスマスは綺麗らしい)、さすがTVロケにも使われるだ けあって素敵。
◆煉瓦とクラシカルな様式にこだわった分、大学としてまとまりがある。
◆全体のボリュームが小さいせいか大学と言うよりは地域の文化を継承する市民パークのような感じがした。 ◆和洋折衷がマッチしている。レンガには暖かみを感じる。
◆都市型リノベーションキャンパスとしていい雰囲気なのでは。

2.自由学園
(D):AAAAAAAAAAAAAA=5.00(T):AAAAAAAAABBBBB=4.29
(S):AAAAAAABBBBBBB=4.00(B):AAAAAAAAAAAAAA=5.00 総合:4.57
◆ライトの建築をそのまま残している事が全ての価値観を示している。敷地を跨ぐ道路も舗装を変えてあり、周 辺も含めたまちづくりが、地味ではあるが丁寧に行われていて良い。都心で下手をするとマンションか何かになってしまいそうな場所だけに、余計その価値を感じる。
◆小さな空間がヒューマンに連続し全体として左右対称の統一感ある姿を見せている。ギャラリーや展示室、会 議室、パーティ会場にうまく使われている。
◆芝生の庭を取り囲む配置、高さのバランスも良い。喫茶があり、展示会やパーティで利用できるのも良い。
◆立面のデザインが心に染みるほど美しい。外構の白いフェンスは合わない。
◆都心とは思えないゆとりの配置。文化的価値を保って残さないと存在が危うい。
◆すみずみまで細やかな心配りが感じられる。
◆ライトの設計を忠実に再現する修復は建築学的にも意義がある。
◆色がイメージと合わない。建設当時はこういう色だったのだろうが。
◆修復後はじめて見た。屋根が茶から緑へ、外壁が白から黄へ変わったらこうも雰囲気が変わるのか。オリジナルに近づけたそうだが、私自身はしっくりこない。
◆色がきれいになりすぎたか?プレーリースタイルという物がよく分かる。
◆ライトの建物は実際に見ると写真より小さい感じがする。対面の施設との空間的な連携ができるといい。
◆前の道路をもう少しうまく取り込みたい。
◆モジュール的に小さいけれど、くつろぐのによい大きさと思う。
◆桜の季節に訪れてみたい。

3.旧 佐伯祐三アトリエ
(D):BBBBBBCCCCCCCC=1.86(T):BCCCCCCDDDDDDD=1.14
(S):ABBBCCCCCCDDDD=1.71(B):AAABBBBBBBCCCC=2.86 総合:1.89
◆普通なら記念碑くらいで済まされる所。アトリエだけでも残したのは意義のある事だろうが、辺鄙だし雰囲気も暗く、うち捨てられた感じ。
◆公園の一部として保存するのが精一杯という感じがした。場所も奥まっているので、経済的にペイする活用が困難なのはしょうがないが、もう少し何とかならないものか。
◆佐伯祐三のアトリエということで文化的価値は十分ある。アトリエ建築としても面白い。現地保存にとらわれ過ぎてはいないか。
◆イメージ通りのアトリエ。(2階の)ドアはキャンパスの出し入れに?
◆貴重なアトリエ村の遺構。若いアーティストに使ってもらったらどうか。
◆保存の仕方、展示の仕方に一工夫欲しい。
◆もう少し何とかならないか。
◆住宅地のドンズマリ、ちょっと恐い雰囲気の公園。「保存」とは言えないのでは?
◆せっかくの歴史的施設が死んでしまっている。
◆ここに保存している、というポーズだけのように感じられてもの悲しい。
◆今のままではただ置いてあるだけ。文化を感じられない。
◆あのままでは放置と変わらない。かつてのモンパルナスをどうするのか。
◆場所がわからない。何なのかわからない。佐伯祐三ってどんな人かわからない。(現地の展示説明が不十分。)
◆不思議なところ。

4.聖母病院
(D):AAAABBBBBBBBBC=3.43(T):AAAAAABBBBBBC-=3.77
(S):ABBBBBBBBBBCCC=2.71(B):AABBBBBBBBCCCC=2.71 総合:3.16
◆建物が保存活用されているのは評価できるが、街路との関係が薄いのが問題と思う。向いの短大についても道路の両側で関係性を持たせたデザインができないか。
◆おそらく建替えたと思うが、塔やロマネスク様式の窓やらカトリック系の病院らしい雰囲気。お金はかかっても患者の安らぎを目指す病院建築としては望ましい。
◆地域のランドマークとしては素晴しい。幹線道路からのアプローチは大変そう!
◆建物入口までのアプローチをどうしてデザイン、演出しないのだろう?
◆少々近寄りがたい雰囲気だが、通りに沿って病棟を増築し、本館と一体となる街並みを作りつつある。
◆手直しすると薄っぺらな印象になるのは気のせいか。
◆オシャレで明るい。眺めもよさそう。
◆とても古い建物と聞いていたので増改築が進んでいて驚きました。
◆増改築を繰り返して内部は迷路のよう?周辺道路は歩道が狭く少し恐い。
◆改修が終わった後に見てみたい。
◆増築して巨大化したときどうなるのか見たいような見たくないような。
◆言われてみないと歴史的建物とわからない。
◆病院という機能を中断せず、原型を維持しながら増改築していくのは、大変なことだし意義がある。

5.日立目白クラブ (旧 学習院昭和寮)
(D):AAAAAAAABBBBBB=4.14(T):AABBBBBBBBBBCC=3.00
(S):AAAAAAAABBBBBB=4.14(B):AAAAAAAABBBBBB=4.14 総合:3.86
◆表現主義風の端正な姿が、落ち着いた高級住宅街のアイストップになっている。
◆アイストップになっていて存在感がある。象徴的。
◆高台にそびえる個性的な佇まいに驚かされた。敷地に入るとあたかも中近東かイスパーニャ。だが、たちこめる味噌の臭いに「ここは日本」と我にかえった。
◆周辺の高級住宅地の中でもランドマークになっていた。
◆1928年の建物がうまく(設備等が露呈しないで)使われている。
◆正面の建物は建築的にも水準の高いものであったが、宿舎とそれが全体のバランスをとっている。
◆明るく、小じんまりとしていて開放的。くつろげそう。
◆外構、ガーデンの演出が施されていないせいか、建物が生き生きと見えない。
◆周辺はいわゆる「目白近衛町」。閑静な住宅地だが、はて?日立目白クラブって建物だけでどうなっているのか。
◆広く一般に公開してほしい。
◆内部を見てみたい。小さな建物(の内部)もよさそう。
◆会社の建物は保存はよいが、時には一般公開等の機会を作って欲しい。
◆企業のクラブハウスという使われ方がここまで維持できた理由の一つ。内部も往時とほとんど変わらないらしい。でも、一般に広く知られないのはもったいない。
◆古きを訪ねて新しきを知る。


【自由記入コメント】
(1)日本で歴史的建物の保存再生の事例が少ないのはなぜだと思いますか?
・「建築素人」が多いからでしょうか。例えば原宿の同潤会アパートなどは若い原宿族にも認知され、建替を惜しむ声がある。もっともっと多くの人が見て歩く、そして利用できる環境を整えることが保存再生につながる。
・住民・市民の意識、制度(資金面を含め)がまだ成熟段階にあるからではないか。
・建物より土地が重んじられたことが大きいのでは。保存も居住者・利用者の視点が欠けていたためと思う。
・建物の価値の判断が明確でない事と、保存に対する社会的認識が低いため。特に昨今の公共団体の財政難も災いして、保存への意識が低い。
・経済的インセンティヴはおろか、保存の社会的インセンティヴが評価されない社会意識。
・価値がわからないから。
・保存する価値の判断が他国と違う。
・歴史的重要性が軽んじられているから。東京駅、長野駅などがそんな事例。
・歴史に対する認識不足(現物がなくても構わない)。建築技術の急激な変化で昔の通りに修繕、維持は大変。
・新築よりランニングコスト等かかる。特に設備は20年でも取替は大変。
・日本人は新しくて便利な建物の方が好きなのでは。地震が多くて建物の持ちが悪いことも関係ある?
・文化より生活優先。消費が美徳?新し物、流行好き。
・歴史的建物の数が少なく、街並みを構成していないので保存する意味があまりない。耐震性に問題があり、改修に莫大な費用がかかる。
・保存するにはその価値が問われる。スペースの無い日本だから、必要な物と残す価値のある物という天秤にはかられ多くは消費に、必要な物が残っていく物と思いますが…。

(2)歴史的建物の保存再生を進めるにはどうしたらよいと思いますか?
・単に建物を見るだけのものとして残すのではなく、自由学園のような「動態保存」が良い。利用されてこそ手が加えられ、大切にされる。
・修復し何らかの利益を得られる施設にするのが一番。神戸の異人館ほど商売一辺倒なのもよくない。由緒ある建物の風格を保ちつづけるのも大事。
・造るにあたっては質の高い空間作りが必要。(小手先のデザインは時代が過ぎるとなくなる物が多い)今までの物を残すには現在においての新しい価値を見いだすことが必要(利用方法等)
・街ぐるみの保存再生、再開発を行う。保存と実用を兼ね、地域振興に貢献する建物としたらよいのでは。
・周りの建物が歴史的建物に敬意を表して設計されて街並みができてくれば、もはや社会的に取り壊せなくなる。 都市部では圧倒的な余剰容積を他に移転できるようにし、経済性を向上させる。
・残したいけどやり方がわからない人への様々な情報提示。そうして事例が増えれば一般化するのでは。
・意識改革も必要だが、地道に保存再生による良い物を沢山見せていくことが有効では。
・歴史建物への保存再生することへの市民意識の共有化を図っていく。
・市井の人達が興味を持つ。イギリスのように古い建物の方が価値がある、といったブームでもあれば促進される。
・使っている、使おうとしている側の意識改革。
・古い建物をいかす暮らし方や利用が、ごく普通の人に広がるように。(時間がかかりすぎ?!)
・保存すべき建物の歴史的価値を評価するシステムをつくる。
・保存の意義の認識。再生の意味やアイデアを考える。
・価値を世間一般に広める。

(3)あなた自身は建物の保存再生のために何がしたいですか?
・自分の住んでいる街での保存運動に参加する。機会があれば自分で借りて住む。当事者以外の場合はできる事は少ない。せいぜいカンパぐらいか。
・例えば保存を要請する署名を行う。特に思い入れのある建物なら寄付してもよい。
・まず出来ることは保存再生をしようとしている団体等への寄付。
・建物の保存価値と利用価値を調査して広く知らせる。
・身近に残したい建物があれば、その価値や保存の意義を宣伝する。
・建物の紹介。
・ワークショップなどはある意味入りにくいので、もっと気軽に参加できるボランティアシステムがあるとよい。
・まずは何を残すべきなのか見極める目を養いたい。でも、残すか壊すかの線引きをするのは誰がやるのか。
・保存だけでなく、一部改築しても現代における施設としての活用を考える。
・利用方法のアイディアをだす。
・住宅のリノベーション。
・見て歩き、そして利用する立場でいられたらいい。
・身近なところからできることを。

(4)今回の企画に対する意見等
・立教大学の「保存+実用⇒再生+拡張」という手法の美しさに感動しました。歴史ある環境が現代に息づき、未来にも発展する様子を見ると、建築物は「生き物」として捉えるべきだと改めて思いました。(N.Kis-)
・様々な保存再生の建物を見、比較することができたすばらしい企画でした。(Y.Ide-)
・地元の歴史的建築物を再認識できてよかった。(M.Ter-)
・意外なのは今回見た地区が駅から至近にもかかわらず超低密度だったこと。そのギャップにかなりの違和感を感じ、空間的な密度のあり方について再考させられた。(M.Fuj-)
・最も関心のあるテーマなので楽しく歩けた。江戸川乱歩の家に行かなかったのはファンとして残念。(S.Hir-)
・なかなか良かった。歴史的建物だけでなく、おまけで行った学習院大学のモダニズム建築群も捨てがたい。立教大学の食堂で昼食にすればもっと良かった。(R.Ota-)
・合同庁舎がけっこう面白い建物。おとめ山と目白庭園がうっそうとしていて良かった。(H.Sak-)
・今度は墨田区、台東区、中央区辺りの企画を是非!(T.Yug-)
・久し振りの都内企画で楽しかった。(E.Ara-)
・友人3人を誘い、家からも近いのでちょっと散策のつもりで参加しましたが、久々の都内開催はハードに歩く内容でした。都心にありながら閑静な場所だからこそ周辺環境を考慮した良い建物があるのかも。(M.Wak-)


■コーディネーターより
梅雨時にもかかわらず大勢の参加で感謝しています。今までのてくてくの活動でも歴史的建築物や保存改修した例を見てきましたが、改めてテーマとして設定すると様々な着眼すべき点が出てきてテーマの奥深さを感じています。今回の企画で喰い足りなかった点を反省しつつ、シリーズとして続られるよう頑張ります。
さて、参加者の意見で個人的に目を引かれた点をいくつか挙げてみます。
・オリジナルとなじみのある風景
自由学園での意見ですが、修復して建設当初の配色に近づけたところ、自分の見慣れた物と違ってしっくりこない。という話です。学問的には正しくても、長年なじんできた地元の人にとっては違和感がある。修復につきものの話ですが、改めて「何のために、誰のために」修復するのか考えさせられる話です。それは個々の建物によって違ってもいいと思います。現地保存の佐伯祐三アトリエにも通じる話です。そう言えば東京駅が戦後50数年ぶりに元の形に修復される計画があるとか。これも案外修復してみると「なじめない、違和感がある。」という意見が出るのかもしれません。
・建築躯体と建築設備
公団住宅の維持管理に携わった経験からですが、建築設備機器の変化は凄まじい程で、躯体が古いままだと新しい設備の設置が不可能な場合すらあります。歴史的建築物を使い続けるには、避けて通れない問題です。文化財クラスならば割り切って古い設備を使い続ける、ということもありそうですが、メンテナンスで部品交換もままならないというのも大変です。設備が古くて使いづらければ、活用もしづらい。住宅などでは、古い設備のまま残すのは住まい手だけに不便を押し付けることになりかねない。これも保存の目的をはっきりさせて、どこを残すのか維持方法を含めて考えなければなりません。
・一般公開と非公開
機能の性格上、非公開の建物は数多くあります。しかし、歴史的な価値があるということで広く一般に公開することは、建物の価値を認識し、意識を共有するために欠かせません。ただし、その場合(年に数回の公開としても)、建物の所有者や本来の使用者にとって大きな負担になることがあります。そんな時に負担軽減のために手を貸すことも建物の保存再生のために自身でできることだと思います。思い付くのは建物の清掃や来訪者の誘導や案内でしょうか。他にも色々ありそうです。
勝手なことを長々と書きすぎました。しかし、それだけ様々なことを考えさせられるテーマでもあります。今後の企画でも皆さんからの様々な意見を伺いたいと思います。よろしくお願いします。 溝辺 正浩

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